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Epilogue



「パパ、また雪が降ってきたよ!」

 ランチハウスの居間のドアを閉めるなり、マシューは暖炉脇に飾られた大きなツリーに最後の手直しを加えている父の所に駆け寄っていった。

 クリフは高い足台の上からゆっくりと降りてきた。今年五歳になった息子の輝く瞳を優しく見下ろし、そのまま両腕に抱き上げると、窓辺に近づき一緒に外を眺める。

「本当だ。どうやら、今年はホワイトクリスマスになりそうだね。そら、今ママが飛び切りのパイを焼いてるぞ。手を洗っておいで」
「うん!」
 マシューは、寒さで赤くなった頬に手をあて、嬉しそうに肯きながら、駆け出していった。

 サマンサはキッチンで微笑みながら、驚くほど息の合う二人のやり取りを聞いていた。仕掛けてあるオーブンを開くと、パイの焼き具合は丁度いい。
 クリスマスのごちそうを並べたテーブルは、ひいらぎとポインセチアの飾りのついたろうそくでアレンジしてある。
 かたわらのゆりかごでは、今年の夏に生まれた小さなアンが、赤い髪と丸い頬を柔らかなキルトに包まれながら、父親そっくりのブルーの瞳を母親に向け、小さな拳を振り振り微笑んでいた。
 クリフの、この娘に対する過保護ぶりときたら! 全く想像以上だ。

 明日はクリスマス。最愛の夫と子供のために用意したプレゼントを、さりげなくツリーの下に置いた。カウボーイ達も休暇で、それぞれ故郷に帰ったり、シティで恋人と楽しく過ごしている。

 サマンサは暖炉の火を見ている夫に近づき、声をかけた。
「食事にしましょう」
「うーん、おいしそうだな」
 クリフは彼女に優しく口づけると、エスコートするように腰に手を回し、テーブルに近づいて行った。マシューもすぐに戻ってきて、飾り付けられた料理を見て歓声を上げる。


 クリスマスイブの夕べ、暖炉の火は暖かく燃え、マウント・リバー牧場のランチハウスには明るい笑いと話し声がいつまでも響いていた。

 窓の外では再び降り始めた雪が、広い大地を一面の銀世界に塗り替えはじめていた。



〜 Fin 〜

patipati  **引き続き、トップページより番外編もお楽しみくださいませ〜。
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