〜〜 ニューヨークの冬景色 〜〜


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 大丈夫だから降ろしてっ、とジタバタするも、数歩で寝室に運ばれてしまい、気が付くとベッドの上に降ろされていた。
 わたわたしているのも構わず、彼は楽しそうにわたしのチュニックワンピを脱がせにかかった。抵抗空しく、分厚いニットの塊がベッドの脇に落ち、レギンス越しに彼の手が誘うように腿の内側を撫で始める。
 爆走し始めた心臓の音が、彼にも聞こえているに違いないと思う。第一、窓の外はまだ明るいのに。いきなり過ぎる展開に、心の準備が全くできない。

「翔君っ、ちょっ、やだっ、後は自分でするから、もういいからっ!」

 脚の間の彼の手を押さえて、懸命に声を上げたわたしを、彼が「ん?」と言う顔で見た。そこで見つめ合ってしまったのが運のつきだった。
 次の瞬間、ふっと笑って唇を奪われ、手の力と一緒に最後の抵抗まで抜け落ちてしまう。

 誘惑するような甘いキスが、やがて熱く翻弄するような性急さを帯びてくる。否応なしに応えながら、こいつ、女をその気にさせることに本当に慣れてる……、と、なんだか腹が立つくらいだった。そうしているうち、ベッドに横たえられて、レギンスの中に片手が潜り込んできた。
 ひゃっ、と思う間もなく、パンティ越しの脚の付け根に指が触れ、びくんと身じろぐ。そのまま二本の指が、巧みに敏感な部分をこすり始めた。彼の唇は頬から耳たぶへ移り、「これでも、まだそんなこと言える?」と、笑いを含んだ囁きが聞こえてくる。
 どんどん執拗さを増す愛撫に全身が熱くなり、呼吸も荒くなってくる。彼の指の下は、薄い布地越しにもわかるほど、ぐっしょり濡れていた。
 もう嫌っ! 腹が立つけど降参!
 わたしは泣き声ともうめき声ともつかぬ声をあげて、相変わらず意地悪な弟を両腕できつく抱き締めた。
 それを待ちかねたように、わたしのうなじから顔を上げた翔平は、自分も含め、残りの服と下着を全部ひきはがす様に取り去ると、性急に覆いかぶさって来た。
 冬だと言うのに触れ合った肌が焦げるように熱い。こうなったらもう本当に駄目。恥じらいも具合悪さも忘れて、ただ彼が欲しくてたまらない。もしかすると、彼の方も同じなのかもしれない。
 堅い胸板に両方の乳房を押しつぶされ、荒々しい息遣いが交錯する。脚を大きく開かれ、すでに猛り立っていた彼自身が一気に突き込んでくると、満たされた歓びがたちまちわたしの中で白い炎となって爆発した。
 喉から自分でも驚くほどの声がほとばしり、身体が弓のようにのけ反る。それから長く続いたクライマックスの間中、わたしは半泣きのまま、彼にすがりついていることしかできなかった……。


 ぬくもりが離れた気配にうっすら目を開くと、辺りは薄暗くなっていた。起き上がった翔平が、かがみこんで「大丈夫か?」と問いかけてくれる。
「やっぱり俺、相当溜まってたみたいだな……。ごめん。今度こそ本当に、朝まで眠っていいから」
 わたしの顔に乱れかかった髪を撫でつけ、優しくキスしながらお休み、と囁く。まるで恋人みたいな翔平に、なんだか嬉しくなって甘い微笑みを返した。
「うん、お休み、翔君……」
 夢心地で呟くと、わたしは満ち足りた眠りに落ちて行った。


◇◆◇


 ブラインド越しに朝の白い光が差し込んでいる……。
 こんなにぐっすりと眠ったのは久し振りのことだった。やっとビザが出てからというもの、一気に加速した渡航の準備と仕事の残務処理に追われ、ずっと慌ただしい日々を過ごしてきたから。
 アメリカに来たことが、まだ信じられないような気がする。心地よい眠りから覚めきらないまま、肌に触れるシーツとベッドカバーの滑らかな感触を楽しみながら、わたしはそっと寝返りを打った。途端に身体が隣に横たわったもう一つの大きな身体にぶつかってしまう。
 はっとして目を開けると、髪を乱した翔平の寝顔が目の前にあった。動いたはずみに、手のひらが彼の滑らかな胸に触れ、慌てて引っ込める。シーツの下、二人とも裸のままだとわかり、わたしは大いにまごついた。
 シーツを肩まで引き上げながら、翔平を起こさないよう、そっと上体を起こした。寝室を見渡して改めて気が付く。この部屋にベッドは一つしかない。
 ということは……。これからずっと、翔平と同じベッドを使うことになるの?
 考えただけで頬がほてり、がばっとシーツに顔を突っ込んでしまった。確かにこのベッドなら、二人でも十分な広さだけど……。


「……で、あんた、朝一番から何やってる訳?」

 ふいに翔平の声がして、ぎくっと顔を上げた。今目を覚ましたばかりらしく、瞬きしながら、わたしを見上げている。
「お、おはよ、翔君……。起きたんだね。というか、起こしちゃったか。えーと、あのぅ、昨夜の記憶がないんだけど、わたし達、あれからずっと寝てたの?」
「ずっと寝てたのは、あんただけ」
 身体を起こした翔平から、呆れたな、と言うように答えが返ってきた。
「俺は夕方から出かけて、ちょっと仕事したり、また飯食ったり買い物したりして……。で、戻ってきても、あんたぐっすり眠ってたからさ。起こすのかわいそうだったから、そのままで今」

 あー、それはどうもすみませんでした……。
 引きつり笑顔を浮かべて目を上げた途端、彼の胸板が目に入り、うわっ、と思い切り引いてしまう。
 わたしも裸だし、ベッドから出るに出られない。困っているのを察したように、憎らしい弟は、くすっと笑って顔を近付けてくる。
 もう抵抗する理由もない。柔らかく唇を覆われると、観念して目を閉じた。今のわたしの思いを探るようにキスを深めながら、彼の手がわたしの裸身を覆っているシーツをゆっくりとはがすように取り去っていく。



patipati

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16/07/06  更新
まだもうちょっと、続くみたいです。。。(汗)
ここ数日、オフがちょっと忙しく、更新が遅くなってすみません…。
今週中に次もアップしますね〜。