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〜 再会の季節 〜


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 柄にもなく、ひどく緊張している……。
 雄介が単なる休憩じゃなく、宿泊で申し込むのを見て、なおのことだった。

「なんだかすっごくドキドキしてきちゃった。まるではじめてするみたい……」
 ラブホと言うより普通のホテルっぽい雰囲気の部屋で、わたしは妙にはしゃいだ声をあげた。
 意外に落ち着いた木目調の床。オフホワイトの壁にはモダンアートまでかかっている。ただ、部屋のど真ん中に陣取っている大きなベッドが激しく照れくさかった。思わず目を横のカウチとテレビにそらせてしまう。
「雄介、シャワー先に使ってよ。あ、わたしDVD見よっかな。何があるんだろ、やっぱりHぃヤツかなぁ」
 どうでもいいことを口走りながら雄介から離れようとしたわたしの手首を、力強い手がぐっと掴んだ。急に身体から力が抜けそうになったわたしを、雄介は強引に引き寄せる。
 彼の全身に漂う何かは、少し怖くなるほどだった。咄嗟に頭を逸らせ、降りてきた彼の唇を避けようとする。けれどそれが却って敏感な喉を彼に差し出すことになってしまった。
 首筋を這い始めた熱い唇と舌の感触にぞくっとし、ジャケットにかかった彼の手を何とか止めようと必死になった。

「シャワーが先……、わたしまだ……」
「俺はお前からの電話を受ける直前に使った。お前も後でいい」
「待って……、それじゃまずドリンクでも」

 往生際悪くバタつくわたしの顔を、彼は空いた手でぐっと持ち上げた。熱を帯びた眼がまっすぐわたしを射抜く。
「どうした? ココまで来て突然怖気づいた? 後悔してるとか?」
「……そういうわけじゃ……ないけど」
「お前がどうでも、俺もう完全に限界……。今夜お前に会った時から、俺の手がお前を抱きたくてうずうずしてたの、お前全然気付いてなかっただろ?」
 わたしは大きく目を見開き、ふるふると首を振った。雄介の口調が突然ひどく荒々しくなる。
「どーせな。お前くらい鈍い奴って他にお目にかかったこともないよ。あの頃からいつだってそうだった。どんなに強く思いを込めて抱いても、お前はちっとも気付かない。俺のことをまるで空気か何かみたいに思ってるんじゃないかって、目いっぱいもどかしくて歯がゆくて……。けど、やっぱり何も言えなくなるんだ。朝になってお前から無邪気に笑いかけられると、まるでガキみたいに手も足も出なくなって……。それで結局、お前をこの手から逃がしちまった。そんな自分の馬鹿さ加減に、この一年以上、最低最悪な気分で過ごしてきたんだからな! 俺は!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
 思わず目を丸くして、驚愕の声をあげた。
 突然そんなこと言われてもヒジョーに困る! というか到底信じられない!
「だけど……、連絡くれなかったじゃない? もちろん会いにも来なかったし……、わたし、てっきり忘れられたと思って……」
「お前が俺を忘れただけだ……。俺がしたくてそうした、とでも思ってる?」
 彼はまた自嘲するような嫌な笑い方をした。
「確かに、卒業した後しばらくお前と距離を置いてみようと思った。お前も忙しそうだったし、そうすることで、もう少し俺達の関係が変わるかとも期待した。だけど俺の方が無理だった。それである日、どうしても会いたくなってお前の会社の前で待ってたら、お前が誰か知らない男と出てくるのが見えた……。俺の目の前で腕を組んで……俺には見せたこともない顔で、お前はそいつを見てた……。俺はまだ学生で、到底太刀打ちできなかった」
「それ……いつ?」
「去年の夏の終わり頃……」

 驚きのあまり、わたしは完全に無防備になった。その虚を付くように彼が動き、カットソーとスカートが次々に足元に落とされていく。耳元でまた切羽詰まった声が響いた。
「もうとっくの昔に俺は……オーバーしてたんだ。絵里、お前はカケラも知らなかっただろうけどな。他の男に抱かれてるお前を想像して、俺が気が狂いそうになってたなんて、どうせ考えてもみなかったよな。だけどそうだったんだ。どれだけお前に会いたかったか、会ってこうしたかったか……」

 効いた。もう心臓直撃。こんなのわたしが知ってる雄介じゃない……。
 大混乱しているうちにいつの間にかブラもはずされ、薄いストッキングとパンティだけになっていた。すぐに彼の手が腰にかかりほとんど引き裂くように、全てを引きずり下ろされてしまう。
 そのまま脚を這い戻ってきた指が、いきなりわたしの脚の付け根の最も敏感な部分に分け入ってきた。声にならない声を上げてわたしは思わず目をつぶる。たちまち小さな欲望の中心を探り当てられ、ざらついた二本の指が丹念にそれを弄び始めた。
「……我慢するなよ、絵里……。感じて、声出して、もっともっともっと……」
 わたしの耳に唇を寄せてこう囁き、耳たぶを甘く噛んだり舐めたりしながら、彼はなおもその敏感な部分に攻撃を集中させてくる。わたしは激しく喘ぎながら身体を弓なりにそらせた。どんなに腰を浮かせて逃れようとしても執拗に追いかけてくる彼の手に、あっという間に全面降伏の瀬戸際まで追い詰められていく。今のわたしに感じられるのは、ただ、わたしを抱きとめている力強い腕と、彼の指と唇の動きだけだった。

 もうダメ……。お願い、せめてベッドに……。

 とうとうわたしは涙声でそう訴えていた。全身が小刻みに痙攣するのをどうすることもできず、ただ泣きべそをかいて彼の頭をたぐり寄せる。
 雄介は憎らしいくらいの微笑を浮かべて、またわたしの唇をふさいでしまった。

 そのまま二人して、もつれ込むように大きなベッドに倒れこんだ。まだムードライトもついたまま。二人の息遣いだけがやけに生々しく聞こえる。
 早くもぐったりしたわたしを見下ろしながら、雄介が服を脱いでいる。わたしは反射的に胸を両手で覆った。けれど、そんな抵抗もすぐに払いのけられてしまう。熱く猛った自身のすべてを現すと、彼は両手と両膝を使い、わたしをベッドに縫い付けてしまった。
 目を閉じていても全身をくまなく辿る強い視線を感じる。頬が燃えるようだ。
「……暗くして」
 ようやくか細い声を出すと、照明が落とされた。ほっとしてうっすら目を開く。

 ベッドの傍らが雄介の重みで沈んだ。
 わたしが重くないようにか、彼は片肘に重心をかけたまま、わたしの顎を掴み、視線を絡ませてきた。


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14/11/02 更新
ちょっと一言、などを、Diaryにて。