Chapter 21

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 突然ベッドに押し倒され、驚きの声を上げた彼女を力づくのように組み敷き、欲望の赴くまま、女の持つ母性の象徴である、柔らかな丸い乳房をこれまでになく貪欲にむさぼり始める。死に瀕した者が、命の水を求めるように、今感じている激しい恐怖を鎮め、飢餓を満たしたかった。
 何かを悟ったようにロイのなすがままになっていたパトリシアも、彼の手が荒々しく滑って、閉じていた足の間の最も敏感な部分に達するや、こらえきれず呻き声を上げた。
 肉体の神秘を暴く扉の鍵は、今や夫となった彼がしっかりと握っている。彼の下で身体を突っ張らせ、髪を掴んだり二の腕に爪を立てながら、身をよじっては苦痛と歓喜の声を上げ続けることしかできなかった。
 ロイは妻がたてる声に酔いしれながら、ついに彼女の最奥を大きく押し開くと、その場所に直に顔を寄せていった。火のような舌先が触れた途端、やけどを負ったように跳ねた腰を両手でしっかり押さえつけると、これまで味わいたくてたまらなかった彼女自身を、唇と舌で思う様まさぐり始めた。
 悲鳴を上げてのけぞった肉体が、たちまちびくびくと痙攣し始める。それでも容赦なくさぐり続けるうち、彼女の内側から激しいうねりが押し寄せてきた。待ちかねたように、彼女の生命の宮に彼自身を深く深く埋めていく。
 彼もろとも呑みこもうとするように、激しく締めつけながら、彼女の全身が突っ張り、口が大きく開いた。ほとばしる命の絶叫と愛の渦に包まれて粉々に砕け散る。
 打ちつけられるような衝撃の後、二人は荒い息をつきながら、これ以上できないほどきつく抱き合い、熱烈に唇を求め合った。
 そうしながらもまだ、彼は彼女の中にいた。達したばかりの震える身体をさらに容赦なく穿ち続けるうち、彼女が再び大きく波打ち、のけ反った。もう限界に達しているのがわかる。それでも夢中で彼を呼びながら手を伸ばし、しがみついてきた。

「ロイ、ロイ、ロイ……、ああっ、ロイ! 愛してる、愛してるわ!」
「パット……、僕も愛してる……。命かけて君だけだ……」

 うわ言のように繰り返される愛の言葉に、愛の言葉を返しつつ、涙と汗に濡れそぼった美しい顔をじっと見つめながら、彼は彼女の肉体を占領し続け、果てしない愛の営みを続けていった。男と女の最も親密な行為の頂点に立ったとき、全ての思考は停止し、ただ二つの魂と肉体の根源的な結びつきだけとなる。夢で見た醜い死の恐怖さえ、いつしか忘我の彼方へ消えていた。
 ついに限界点が訪れた。ロイは張り詰めた身体を激しく震わせながら、彼女の内に自らの全てを注ぎ込んだ。焦がれ続け、ついに彼のものとなった女の身体をもう一度、力いっぱい抱き締める。
 二人はそのまま暗黒の闇を超えたはるかな光の中へ、飛び立っていった。


*** ***


 そして、意識を失うように眠りに落ちたらしかった。
 次にパトリシアが目覚めた時、太陽はすでに大地に眩しい光を投げかけていた。ベッドにいるのは自分一人だ。起きようとした途端、体のあちこちが痛んだ。ようやく慎重に起き上がってみると、キルトから覗く肌に、彼の印がいくつも刻み込まれている。

 ロイ……。
 昨夜のあまりにも激しかった愛の行為が次々とよみがえるにつれ、頬が熱くなってくる。これまでにも幾度か愛し合ったけれど、あんなに力づくのように愛されたのは初めてだった。
 だが、今や二人は夫婦になったのだ。もう何も恐れることはない。ついに彼と完全に一つになれたという喜びと誇りが、恥じらいより数倍大きかった。
 それに、一言も口にしなかったが、パトリシアもロイの強い不安感は感じ取っていた。抱かれながら、彼を少しでも癒せるなら、と心から願った。たとえそれが束の間の慰めにすぎなくても……。

 そのとき、廊下で犬の鳴き声がして、そっとノックがあった。
 返事をすると、ドアが開き、子犬が飛び込んできた。続いてトレーを手にしたロイが、神妙な面持ちで入ってくる。

「起きてたんだね。そろそろ、どうかなと思ったんだ。朝食だよ、食べられそうかい?」
 コーヒーとハムを挟んだパンをのせたトレーをベッドサイドに置きながら、彼はいたわるように言った。
「ええ、大丈夫よ……。ごめんなさい、朝の支度、わたしがしなくちゃいけなかったのに……。初日から、奥さん失格ね」
 しょんぼりする彼女の肩をロイの手が包み込んで引き寄せた。キルトから覗く首筋から肩に散る花びらに目を細める。

「いや、昨夜はかなり無茶をさせたから……。こっちこそすまなかった、つい我を忘れてしまって。痛くないかい?」
「謝る必要はないわ。最高に素晴らしい夜だったもの」
 謝罪の言葉を遮るように、両腕を伸ばして彼を抱き締めると、彼女の方からキスを仕掛けていった。たちまち彼の腕もからみついてきて、口内に滑り込んできた舌が熱く絡み合う。
 動いたはずみに、パトリシアの裸身を覆っていたキルトがずり落ち、丸い乳房が露わになった。彼の手がふくらみに触れ、豊かさを慈しむように再び弄び始めると、たちまち歓びがこみ上げてきて、一層きつく彼にしがみつく。  だが、ロイはもう一度彼女の唇に激しくキスすると、引きはがすように顔を離してしまった。

「こんなことばかりしていると、今すぐベッドに逆戻りになってしまうよ。多分、君の身体が持たないな。それに今日は絶好のピクニック日よりなんだ。谷の方に行ってみないか?」


 五月のよく晴れた日だった。二人は子犬も連れて、昨日から借りている二人乗り馬車で出発した。

 街道脇に並んだリンゴの木がいっぱいに白い花を付けている様を見て、パトリシアが感嘆の声をあげている。
 ロイは馬のたずなをゆるめ、彼女が風景を楽しめるように、ゆっくりと走っていった。彼にとって見慣れたはずの景色さえ、二人で見ると輝いているようだ。

「こんなにきれいな所だったのね、わたし達の故郷は」
「そう言えば……、君はいつまでこの島にいたんだい?」
「十六歳よ。でも、あなたが行ってしまった後一年くらいして、シャーロットタウンに移ったから、ここにはそれほどいなかったの。それにお屋敷の中ばかりで、どこにも連れていってもらえなかったし」
「それじゃ帰ってきてから、二人で島中を巡るっていうのはどう? 海の方にも行ったりさ」
「その言葉、しっかりと覚えておくわね」

 街道を逸れてメイフラワーの咲く森の窪地に出た所で、ロイは馬車を止めた。緑の芝草の上に降り立つと、木陰に持参した敷物を広げて、パトリシアを丁重に降ろしてやる。


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17/11/19
本ストーリー最高に甘々な二人の日々でございます…。
もう少し続きます。