nexttopmenu



18


PAGE 2

「こんなの初めて……」
 解放され完全に満ち足りて、サマンサはクリフの腕の中ですすり泣いていた。
「僕もさ」
 まだ少し荒い息をつきながら、クリフも微笑んで、彼女の湿った髪を撫でている。
「だって、あなた……、今まで一度も言ってくれなかったんだもの……」
「そうだな。今まで、君があいつを選ぶんじゃないかっていう不安が、どうしても消えなかったのは事実だ。それに君だって、僕に対してそんなふうに感じてはいなかっただろう? 僕は会うたびに君に夢中になっていくのに、君の方はいつまでたっても僕のことを、友達扱いしかしてくれないしね。だから一歩引いて、君に接するしかなかったんだ」
 優しい微笑を浮かべて、サマンサが答えた。
「そんなことなかったのに……」
「ダーリン、愛しているよ。もうずっと前、君にはじめて会ったときから。他に僕が君に結婚を申し込んだ理由は何もない。これでもまだ、僕の気持を疑ってるかい?」

 サマンサは答える代わりに、再び満ち足りた女の微笑みを浮かべた。ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。確かにそれ以上、言葉は何も必要なかった。



 カンザスに向って飛ぶ飛行機が、厚い雷雲の上を通過した時、乱気流で飛行機が激しく揺れた。機内にシートベルト着用のアナウンスが流れる。
「ママ、どうして急にガタガタするの?」
 マシューが隣の席に座るサマンサを見上げて訊ねた。
「下は嵐みたいね。大丈夫かしら」
 丸い窓から下方に広がる厚い黒雲を見下ろしながら、少し不安げに言うサマンサを、クリフがからかった。サマンサは少しふくれながら、なおも心配そうに窓の外を見ていた。かなり揺れつつも、飛行機は無事にNYからの二時間数十分のフライトを終え、カンザスシティの空港に降りたった。

 外は激しい雨が上がったばかりのようだった。三人はターミナルから外へ出ると、さっきの嵐で遅れている牧場からの迎えを待っていた。
 突然マシューが彼方の空を指差し、歓声を上げた。
「ほら、見て! 虹だよ! とってもきれいだね」
 嵐が去り、再び太陽が顔を覗かせはじめた中空に、三人の新しい出発を祝うように、大きな七色の虹がかかっていた。
 見つめるクリフとサマンサの顔にも、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。



nexttopmwnuhome