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〜 再会の季節 〜


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「……もしかして緊張してる?」
「うん……。大分」
「俺が怖い?」
「うん……、ちょっと……」

 わたしは正直にうなずいた。雄介はちょっと目を細めたけれど、そのままためらうことなくわたしに覆いかぶさってきた。
 再び始まったキスはどこかぎこちなくて、彼が精一杯自分を抑えてくれているのが感じられた。
 彼の手のひらがわたしの胸を包み込み、最初は指先でその柔らかさを確かめるように、それから唇を寄せて愛撫し始める。途端に悦びが頭の真芯に走り、思わず両手で彼の頭を抱き締めていた。たちまちつんと尖った二つの蕾を彼の口唇と歯が熱っぽく交互に吸い上げる。我慢しきれず声を上げて雄介の髪を引っ張った。何だか彼も震えているような気がする。
 雄介の指が腹部を撫でながらさらに下りて行き、もうとうに濡れて待ち望んでいたわたしの中心を再び攻撃しはじめた。

「ゆーすけぇ……、お、お願い……もう……」

 本当にどうにかなってしまいそう……。
 彼の腕を掴んで止めようと無駄な抵抗をした挙句、とうとうすすり泣いて訴えることしかできなくなった。顔を上げた雄介は、そんなわたしを見て笑みを浮かべている。泣きながら癪に障って、わたしは手を伸ばすと彼自身をぐっとつかんでやった。途端に彼もウッと唸って、きれぎれに息を吐き出した。

「ああ……、俺もそろそろ限界……。お前にお願いされるまでもなく……」

 雄介は素早く身を起こし装着すると、わたしの膝を開いて一気に分け入ってきた。急激に押し広げられる抵抗感ともたらされる快感とが拮抗し、呼吸がさらに乱れてくる。目を閉じてわたしの中に入ってきた彼を味わうことに集中した。
 雄介はまるで苦痛をこらえるように呻いてわたしに覆いかぶさってくると、両手でわたしの上半身を痛いほど抱き締めた。そして滑らかに動き出す。
「絵里……、絵里、絵里……」

 繰り返し名前を呼びながら飢えたように突いてくる男の身体を受けとめるたび、彼の背中に傷がつくほど爪を立ててしがみつく。そんなわたしの反応を熟知しているくせに、雄介は少しも力を緩めない。
 彼の下で身体が幾度もしなった。ふいに彼が二人の結合しているあたりに手を伸ばし、とっくに爆発寸前になっているわたしの神経を一層掻き立てるように激しく触れてきた。
 指先から送られてくる強烈な刺激がコイル巻きの渦のように背筋を走り、身体が大きく反り返る。
 ああ、この声……。本当にわたしが出しているの?
 そう思ったときとうとう爆発が起こり、目の前が真っ白になる。

「目、開けろよ」
 のたうつわたしを支えていた雄介が、顎を持ち上げぶっきらぼうに促した。しばらくして、ようやくぼんやり目を開くと、食い入るようにわたしの顔を見つめる眼が飛び込んできた。
「……もう無理、……これ以上……もたな……」
「まだだぞ。俺の一年分、しっかり受け止めてもらわないとな」
 ぐったりして、ほとんど声も出せないわたしの口元に唇を寄せて囁きながら、じらすようにキスし、再び腰を回して同じ動きを繰り返す。
 とうとう再び押し寄せてきた波に巻き込まれ、大声をあげたとき、わたしの手の下で雄介の背中がぴんと張り詰め、のけ反った。
 彼の喉から漏れる鋭い叫びを聞きながら、わたしは疲れきって夢も見ないような眠りの中に意識を手放していった……。



 ふと心地よい刺激を感じた。わたしのさして大きくもない乳房を男の手が包み、唇が先端をリズミカルに吸っている。その快さが眠りの繭の中にまで届き、わたしの感覚を再び揺さぶり始めた。
「ん……、弘紀……さん……」
 わたしは彼の名を呼び、胸元に覆いかぶさっていた男の髪に指を差し入れた。

 その途端、ベッド脇のライトがついた。男の手がわたしを乱暴に引き起こし、無理に顔を上げさせる。
 突然の動きと光に目をしばたかせると、怖い顔で覗き込んでいる雄介が見えた。わたしを抱きかかえる腕が、いや、全身が強張っている。
「雄介……。あ……、そっか……わたし」
 何度も瞬きするうち、ようやく意識がはっきりしてきた。
 同時に今夜の記憶が一気に蘇る。
 どうしよう。最悪だ……。
 振られた反動でいきなり呼び出して泣きついた男の腕の中で、前の男の名前を口にしてしまうなんて。

 雄介はわたしのあごに手をかけたまま目を細めている。黙っていてもぴりぴりするような波動が伝わってきた。
 怒った……よね。本当にごめん……。

 わたしは咄嗟にそう呟いて、どうにかごまかそうとしたが、彼の目は刺すように冷たいまま。
 あっと思ったとき、雄介の顔が覆いかぶさってきて乱暴に唇を奪われていた。今度はさっきの優しさも忍耐もカケラもない。怒りに任せたような粗暴なセックスでも、身体だけはどんどん高められ、限界まで追い詰められていく。再び準備を整えた彼が一気に突き込んでくると、思わず痛みに似た悦びの声をあげた。
 雄介が動きを止めた。低い声で真剣に問いかけてくる。
「お前にとって、俺は何?」
「え……?」
 朦朧とした意識をどうにかたぐり寄せようとするが、とてもできなかった。この状態で考えろと言うの? ひどいよ。
「俺は単なる代用品に過ぎないのか? そいつの?」
「ゆーすけ……」
「俺を見ろよ、絵里!」

 荒々しく促され、ようやく目の焦点を彼に合わせる。
 彼の息もかなり上がっていた。顔には怒りとショックと痛みをごちゃまぜにしたような激情が浮かんでいる。
 今やめられたら本当にどうにかなってしまう。息をつきながらかすれた声で答える。
「今はダメ……。何も考えられないよ……。お願いだから……」
 ただそればかり繰り返すわたしに、彼は目を細めると、再び無言で動き始めた。

 やがて二人が結びついている一番奥で小さな爆発がいくつも始まった。こらえきれなくなって、わたしを所有している男の力から逃れようと、無意識に上半身を起こしかけた。雄介はまるで待ちかまえていたように、わたしの身体をぐいと引き起こすと、互いの位置を入れ替えてしまった。
 白いベールの向こうから男の呻き声が聞こえた。見下ろすと雄介もまた目を閉じて、あえぎを噛み殺すように歯を食いしばっている。

 ふいに彼への愛しさが胸にこみ上げてきた。わたしは手を伸ばして雄介の汗ばんだ首筋から胸元、そして平らな腹部まで、滑らかな肌触りを慈しむようにゆっくりと辿っていった。
 はっとしたように息を詰め、しばらくわたしの手のひらが触れるまま、彼はじっとしていた。それからふいに焼けるような眼でわたしを見上げ、さらに激しく突き上げ始めた。わたしの身体が大きく揺れる。支えを求めて所在無くさまよう手を、彼の掌がしっかりと包み込んでくれた。それにすがりつき、わたしも強く握り返す。
 すべてが終わったとき、わたしはなりふり構わず雄介の胸に倒れ込んでしまった。雄介の力強い両腕が、わたしを包むようにしっかりと抱き締めてくれる。
 そのぬくもりはあまりにも心地よくて、泣きたいほどだった……。


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14/11/04 更新